TECNOFORM JOURNAL

01 / MARS ICE HOUSE

火星の氷を
建築材料にする

火星の水氷を、自然光を通す殻と宇宙放射線を和らげる防護層へ使う。Mars Ice Houseから生まれた実現可能性検討は、住居を「形」ではなく、資源・光・環境制御を束ねる生活基盤として描きました。

最終確認日:2026年9月6日|構想・研究・実証・販売状況を区別して記載

確認できた結論

Mars Ice Houseは、火星の水氷を利用し、自然光を生活空間へ取り込みながら、宇宙放射線から乗員を守る「氷のシールド」をもつ居住構想です。2015年、曽野正之氏が参加したClouds Architecture Office/SEArch+チームが、NASA 3D-Printed Habitat Challenge Phase 1の設計部門で1位(賞金25,000ドル)となりました。

「氷を3Dプリントする」ではなく、何を建築化したのか

元のMars Ice Houseは、将来の火星居住を想定した建築設計コンペ案です。NASAの技術資料は「自律施工される3Dプリント住居」という構想と、水氷を建設材料に選んだ理由を記録しています。しかし、火星の氷を溶かしてそのまま3Dプリント材料にした完成基地が実証された、という意味ではありません。

2016年の後続研究「Mars Ice Home」では、発想をより具体化しました。展開式の居住構造の外側に、現地由来の水で満たす半透明の氷ポケットを設ける案です。氷は放射線防護と構造の一部を担い、内側には火星大気から得られる二酸化炭素の断熱層を置く計画でした。

光を通し、上から守る氷のシールド

Clouds AOの公式説明によれば、半透明の氷は昼夜のリズムにつながる自然光を室内へ導き、外部の景色も確保します。同時に、銀河宇宙線や太陽粒子の影響を軽減するため、最も強い放射線が届く上部に厚くなる断面が検討されました。ここでの氷は、単なる外壁ではなく、光・熱・放射線・心理的なつながりを同時に扱う環境装置です。

2016年の実現可能性検討——公開された断面図

Mars Ice Homeの公開断面図。居住室、温室、食事準備、図書、エアロック、氷室、二酸化炭素断熱層、液体水貯蔵を示す
2016年のMars Ice Home公開断面図。居住室、温室、食事準備、図書、エアロック、氷室、CO₂断熱層、液体水貯蔵を示す。図:Clouds Architecture Office/NASA Langley Research Center。Clouds AO公式ページから、解説に必要な範囲で引用掲載。図版の著作権は権利者に帰属します。

図面を見ると、宇宙服を扱うエアロック、温室、食事準備、衛生、個室と共同空間、水・氷・断熱の層が、ひとつの生活系として置かれています。「基地を印刷する」というより、供給・保守・栽培・作業・回復を支える建築と設備を一緒に組み立てる設計です。

工房で住宅模型と材料見本を照らし合わせる設計検討

何を競った「1位」だったのか

Phase 1は、建築性、居住性、革新性、機能、敷地選定、3Dプリントによる施工可能性などを評価する設計競技でした。競技全体はその後、材料・構造部材を扱うPhase 2、実物の縮尺施工へ進むPhase 3へ続き、2019年の最終ラウンドではAI SpaceFactoryが1位、Pennsylvania State Universityが2位でした。紹介時には「Phase 1設計部門で1位」と添えるのが正確です。

地球の3Dプリント建築へ返ってくる4つの問い

  1. 材料は輸送するのか、土地から得るのか。 建設コストだけでなく、採取・精製・品質安定まで含めて考える必要があります。
  2. プリンターは形だけでなく環境性能をつくれるか。 光、熱、湿気、放射線など、殻の役割を同時に設計します。
  3. 無人施工のどこに人間判断を戻すか。 材料ばらつき、停止、補修、検査を誰がどう確認するかが残ります。
  4. 居住性は最後に足すのか、最初から組み込むのか。 面積や強度だけでなく、長期滞在者の感覚と文化を扱います。
取材時の表現メモ
「NASA 3D-Printed Habitat ChallengeのPhase 1設計部門で1位となったMars Ice Houseの設計チーム」と紹介すると、敬意と事実精度を両立できます。

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